MPI Report 003

トランスパーソナルからトランステックへ

報告者

深沢孝之


報告日

2019/1/15


概要

MPI(Mind Processor Instituteでは、日本文化、日本精神の根幹である古神道(白川神道)の教えを基盤とし、「情緒」に焦点を当てながら、「マインド(Mind:心、精神、意識、情緒)プロセッサー(MP:マインドプロセッサー)」として概念化して一般に提供することを目指している。本レポートでは、心理学の中で意識進化への関心をもっとも強く持つトランスパーソナル心理学を取り上げ、その歴史と理論的内容を概観し、白川伯王家神道やneten Inc.R&D Centerにおける研究開発との比較を行う。

目次

1 はじめに

2 心理学の歴史

2.1 第一の心理学:精神分析、力動心理学

2.2 第二の心理学:行動主義心理学、認知行動療法

2.3 第三の心理学:人間性心理学

2.4 第四の心理学:トランスパーソナル心理学

3 MPIとMPについて

3.1 日本の心理学

3.2 MPの意義

3.3 MPIの提唱する理論

3.4 MPという仮説

4 まとめ

1 はじめに

現在、多種多様な理論がひしめく心理学の中で、意識進化への関心をもっとも強く持つものにトランスパーソナル心理学がある。70年代辺りからアメリカ西海岸を中心に、西洋心理学と東洋思想を統合しようとして勃興したトランスパーソナル心理学は、一時期心理学や宗教界、いわゆるスピリチュアル文化の世界で注目を集めたことがあった。おそらくneten株式会社・neten Inc.R&D Center(旧七沢研究所)の活動に関心を持つ人の中にも、トランスパーソナル心理学に触れたり、学んだことのある人がいるかもしれない。

その中で2018年10月14日、日本トランスパーソナル学会第13回大会において、neten株式会社・neten Inc.R&D Centerから白川伯王家の神道とデジタルメディテーションに関する発表をする機会を得た。その際には、多くの人が参加し、熱心な質疑が交わされた(渡邊・深沢 2018)。

さらに、続く11月にアメリカ、サンフランシスコのパロアルト市で開かれた「TRANSTECH CONFERENCE」 にneten Inc.R&D Centerから初出展した際に、その内容に関心を持ったアメリカ人の中にトランスパーソナル心理学を修めた研究者が複数いて、その後交流しているようである。

このように白川伯王家の神道とそれに基づいて構築された理論や思想、技術とトランスパーソナル心理学は親和性があることがうかがえる。したがって、本レポートでは改めてトランスパーソナル心理学の歴史と理論的内容を概観し、両者の比較を行い、研究所の活動やMPの意義を考察する。

2 心理学の歴史

心理学の起源は古代ギリシャの自然哲学まで遡れるが、学問の体系として確立されてからの心理学の歴史はまだ短い。

19世紀後半にはドイツとアメリカを中心に、実験心理学の研究室が開設され、科学的心理学を学問とする学史観が形づくられた(中島, 2014)

その中で臨床心理学に焦点を絞ると、20世紀前半はおもに2つの勢力があり、第一勢力は「力動心理学・精神分析」、第二勢力は「行動主義心理学」とよばれている。1950年代後半に入り、この2つの心理学を批判する形で生まれてきた「人間性心理学」が第三勢力であり、1960年代にその発展のプロセスの中で生み出された「トランスパーソナル心理学」が第四勢力とされる。ただしこれは、トランスパーソナル心理学の側から見た心理学史観である。

2.1 第一の心理学:精神分析、力動心理学

オーストリアの精神科医フロイトによって提唱された「精神分析学」とは、「無意識」の存在に注目することで体系化された理論である。フロイトは、「無意識」の葛藤によって精神病理が引き起こされていて、無意識の意識化によって精神病理を治療できると考え、無意識の自己理解を深めようとした。

また、フロイトに影響されながらもアドラーやユングはフロイトを批判し、独自の心理学の体系を構築した。


2.2 第二の心理学:行動主義心理学、認知行動療法

第二勢力の「行動主義心理学」は、客観的に心を扱うのは難しいと考え、観察可能な「行動」を研究対象とした。環境からの刺激と人間を含む生物の反応(行動)の関係が研究されるようになった。

こうした考え方の背景には、生物学におけるダーウィンの進化論、パブロフの条件反射説、デューイやエンジェルらの機能主義心理学の影響があったとされる(中島, 2014)。日本でもアメリカでもアカデミックな世界では、この行動主義心理学が主流をなしている(諸富, 2014)。

現在、この流れは行動科学ともよばれ、臨床的には認知行動療法があり、また行動経済学など、マーケティングやビジネなど多くの分野でも大きな影響を与えている。昨今話題のマインドフルネス瞑想は、アジアの仏教瞑想が、この認知行動療法の枠組みで研究、実践されたものである。


2.3 第三の心理学:人間性心理学

「人間性心理学」とは、人間を、無意識が支配しているとする精神分析や、外的環境に支配されているとする行動主義に対して、自由意志をもつ主体的な存在として捉える立場である。アメリカの心理学者、アブラハム・マズローがこれを第三勢力の心理学とよんでいる(中島,2014)。実存心理学や現象学的心理学などもここに含まれ、中でももっとも大きな役割を果たしたのはアブラハム・マズローである。カール・ロジャースのクライエント中心療法、ジェンドリンのフォーカシング、パールズのゲシュタルト療法、フランクルのロゴセラピ-などもここに含まれる(諸富,2014)。

人間性心理学では、ひとりひとりの主観的経験を重視し、生きる意味や価値の発見など「自己実現」の大切さが強調される。

マズローによれば自己実現(self - actualization)とは「基本的欲求(帰属・愛情・尊敬・自己評価)がすべて満たされている」人である(マズロー,1986)。いうなれば、人が安心・安全な環境を得て十分に自己の資質を活かして、目標や夢を達成させ、そのことによって十分な満足感を得ている状態であろう。

マズローは「欲求の5段階説」として人の諸欲求を整理し、人の心の発達を明示した。その図式は非常によく知られているものである。

この心の階層論は、産業構造や情報、交通等がグローバル化し、流動化した現代社会に生きる我々には納得しやすい考え方であり、多くの分野で「自己実現することが人生の目標である」という言説が広まるようになった。

我々はかつてのように身分や家系等によって決められた役割を生きるのではなく、「自分がなりたいものは何か」「何をしたいのか」「何を欲しているのか」などと、常に自身に問いかけながら、自分の人生を作ろうとしている。「自己実現」は、現代人の心理的志向性を的確に表現していたといえる。

2.4 第四の心理学:トランスパーソナル心理学

しかし、提唱者のマズロー自身は、アメリカ人への調査研究などから、早くから自己実現の限界に気づいていた。

「その人(自己実現した人:筆者注)はすでに、「メタ動機」と呼ばれるほかの高次の動機づけがなされている」(マズロー,1986)と、自己実現した先の動機(自己超越欲求)の存在を示唆していた。

日本にトランスパーソナル心理学を紹介した吉福(1989)は、「自己超越は、六番目の一番上に置くべき欲求というよりも、欲求の階層を上がっていくにしたがってつねに機能しているメカニズムだと考えたほうがいいかもしれません」とマズローの真意を述べている。

つまり、自己実現を果たしただけでは、人生は完成しない。マズローは自己意識を超えた体験を人は経験しうる、それは人生において大きな価値があるという考えを持つようになった。そのような体験を「至高体験 peak experience」と呼んだ。至高体験は、伝統宗教の神秘体験から、日常の幸福体験、最近のポジティブ心理学でいう「ゾーン」を含む広い概念である。ここから、自我という狭い自己意識を超えることが、人の成長に無上の価値をもたらすことが強調されるようになり、自己を超えた意識状態を探求しようと「トランスパーソナル心理学 Transpersonal Psychology 」の創始へと至った。

このようにトランスパーソナル心理学は、心身のより健康な側面を追求する人間性心理学と東洋思想・神秘主義・シャーマニズムの普遍的な意味を統合することを意図している。トランスパーソナルとは文字通り、個々の精神を超えることであり、通常の自我境界を越えた意識の広がり、さらには至高体験、宇宙意識のような超正常の体験領域をも包含する(中島,2014)。

ここにきて、西洋から発達した心理学は、東洋思想と融合し、その研究対象も、無意識や行動、自己実現から、個を超えた宇宙意識や、身体と心だけでなく、魂の次元までをも含むようになった。

以上を踏まえると、トランスパーソナル心理学は西洋心理学を基盤とした意識進化の道を模索していたことがうかがえるであろう。

3 トランスパーソナル心理学とMPI、ロゴソロジー

3.1 トランスパーソナル心理学の展開と限界

マズロー以後のトランスパーソナル心理学は、何人かの指導的心理学者が登場して、興味深い展開がなされた時期があった。

特にケン・ウィルバーの「意識のスペクトル論」は、人の意識全体を階層構造として精緻にとらえて、各心理学派を統合し、「悟り」への階梯を示そうとしたもので、トランスパーソナル心理学の形成に大きな影響を与えた。

実践的には、人間性心理学やユング心理学等の技法や、激しい呼吸法を使った独自の技法(ホロトロピック・セラピーと呼ばれる)を使ったグループ・セラピーや、仏教瞑想や気功法や太極拳、イスラム神秘主義スーフィー、ネイティブアメリカンのシャーマニズムなどを取り入れたワークなどを多彩に駆使するものであった。

筆者(深沢)は日本にトランスパーソナル心理学が入ってきた80年代半ば頃、その紹介者たちのグループの近くにいて、その活動に若干参加していたことがある。その後諸事情で縁が薄くなってしまったが、90年代以降のトランパーソナル心理学の活動を観察すると、しばらくは、学会やセミナー等で活発に活動していたように思われる。

ところが、2000年代に入って以降、トランスパーソナル心理学に特に目立った展開はないように筆者には見える。理論面における発展は特にないようで、少なくとも日本においては、筆者が身を置く臨床心理学の世界で取り上げられる機会はかなり減ったようである。一般的には、特に90年代半ばのオウム真理教事件の影響が大きかったようである。また2000年代の新自由主義経済等による、精神面より経済重視の風潮も影響していたように見受けられる。

アメリカのトランスパーソナル心理学の現状については、よくわかっていない。今後の調査が待たれる。臨床心理学の世界では、トランスパーソナル心理学に関心を持ったような人たちが、現在はマインドフルネス瞑想など、より科学的、実践的な分野に移っていった印象が筆者にはある。


3.2 MPとトランスパーソナル心理学

これまでトランスパーソナル心理学と白川伯王家の神道やneten Inc.R&D Centerとの交流や影響関係は特になかったと思われる。しかし、日本トランスパーソナル学会会長の諸富(2014)は、「足元にあった東洋の知恵を改めて見直すこと・・・、また逆に、私たちの精神的伝統の遺産を心理学として再構成しうる」と課題と必要性を述べており、まさに「足元にある」古神道の知恵はその目的にかなっていると言えるだろう。

実際に今後は、両者の様々な側面を比較し、学び合うことで相互の発展が進む可能性がある。

理論面においては、前述したマズローの欲求の段階説やウィルバーの意識のスペクトル論は意識の自己成長のための階層論であり、neten Inc.R&D Centerの意識進化のための「五階層論」と共通する発想がうかがえる。

相違点は、大枠としては、トランスパーソナル心理学は「トランス(超える)」という言葉にあるように、自我意識を超えて「悟り」へ向かう道筋を描こうとしているのに対して、白川伯王家の神道ならびにneten Inc.R&D Centerでは「悟り(神の階層」から現実創造に至る道筋に関心があるところかもしれない。本レポートでは十分に言及できなかったが、今後の研究課題としたい。

実践上の共通性は、トランスパーソナル心理学は心理学的ワークや瞑想等といった心理学的、アナログ的方法を中心にしており、こちら

も古神道独自の鎮魂やお祓いという伝統的でアナログ的方法を保存、継承しているところである。また、自己客観視の手法のひとつとしてneten Inc.R&D Centerが提唱している五階層構文の作成に見られる、思考を整理しながらその人の考え方の変容を促していくところは、論理療法など認知行動療法系の心理療法の影響がうかがえる。

しかし相違点は、こちらは周波数発信機ロゴストロンやVR等のデジタル機器を開発、導入して、意識進化を人工的に加速させようとしているところであろう。

また、両者は全体性、ホリスティックなアプローチを目指すところ、そこから派生して、身体性を重視するところは共通している。だがトランスパーソナル心理学はワークショップなどで、ボディーワークや気功法、ダンスのような心理的要素の強い身体運動をよく採用しているようなのに対して、neten Inc.R&D Centerは整体、古武術的な身体運動も重視しているが、栄養サプリメント、食事などの物質的なアプローチも積極的に取り入れているところは違うかもしれない。

とりわけ先に述べたneten Inc.R&D Centeのデジタル機器に対するアプローチは特筆すべきところである。そのまだ多くが仮説段階であるが、既に実用において多くの効果が出ているとされている。今後は各ラボの研究レポートが蓄積されてくることで、経験的な証明がなされることが期待される。

筆者としては、おそらくトランスパーソナル心理学の限界を超える道筋がここにあると、我田引水ながら結論づけておきたい。

4 まとめ

本レポートでは、人間性心理学の代表的心理学者マズローが自己実現の先にある自己超越の段階まで理論的発展をさせてトランスパーソナル心理学に至った流れをまとめた。

トランスパーソナル心理学のような心理学と東洋思想が統合される動きがある中で、古神道という日本古来の叡智を現代心理学の枠組みに統合し、構築していくことは、心理学史においても、日本の伝統的精神性の見直しを図る上でも、さらに、心・意識のメカニズム解明への貢献としても、有意義であると思われる。今後もMPIでは、各種の心理学やそれの応用システムを比較研究しながら、さらなる理論モデルや技法を提唱できるようにしていきたい。

引用文献

渡邊真輝子・深沢孝之(2018):古神道の祓い・ 鎮魂における意識進化論について~公という 自己超越の視点,日本トランスパーソナル学 会第13回大会資料

久能徹・松本桂樹(2000): 心理学入門,株式会 社ナツメ社

諸富祥彦(2014): トランスパーソナル心理学入 門 人生のメッセージを聴く, 講談社

中島 義明(2014): 心理学辞典. 有斐閣

マズロー・A(1986):メタ動機:価値ある生き方 の生物学的基盤,ウォルシュ他編,吉福伸逸 訳・編,トランスパーソナル宣言 自我を超え て,春秋社

吉福伸逸(1989):トランスパーソナル・セラピー 入門,平川出版社